2020年7月29日〜2020年8月5日に、LINE社の法人向けAI製品・ソリューションに関するカンファレンス『LINE AI DAY』が開催されました。
本記事では、コロナ禍における『LINE AiCall』の実用例や飲食業界で構想されている『LINE AiCall』の活用イメージ、さらにはヤマトホールディングス様のDXの取り組みにおけるAI活用やAIと人の役割に関する考え方について、お話しいただいた内容をご紹介します。
『LINE AiCall』について
LINE CLOVAの音声認識、音声合成、会話制御の仕組みを組み合わせた音声応対AIサービスです。たとえば、飲食店の予約応対、コールセンターでのFAQ回答などの業務を遂行することができます。
コロナ禍で見られる企業活動の変化
コロナ禍で、企業を取り巻く環境は大きく変わりました。在宅ワークの普及もそのひとつです。新しい習慣や行動様式、顧客ニーズの変化などにより、ビフォーコロナでも注目の高かったDX推進やAI導入の流れは加速し、今までとは違ったやり方でビジネスを行う必要があります。
飲食業界で進むDXとAIの導入
コロナ禍の影響が大きい業界のひとつに、飲食業界があります。
最初のセッションでは、飲食業界の顧客コミュニケーションをテーマに、飲食業界で注目の3社によるディスカッションが行われました。
飲食業界への影響について、株式会社エビソル(以下、エビソル)の田中氏は「2月まではオリンピックの影響で予約状況は好調だったものの、予約件数は4〜5月末までは前年対比で90%の減少、緊急事態宣言後も全国では60%〜70%の減少が続き、東京では半分も戻っていない。感染対策と売上対策を行なっているが、依然厳しい状況が続いている」と実状を明かしました。
複数の飲食店を経営する株式会社Bespo(以下、Bespo)高丘氏も「このままでは残念ながら廃業が増えるだろう」と危機感を募らせています。
全国約4,000店舗を対象にした、飲食店向け予約管理システム「ebica」の
インターネット・電話を含めた全国平均の予約件数推移
--コロナ禍が飲食業界にもたらした2つの変化
こうした状況を受け、株式会社出前館(以下、出前館)の藤井氏は2つの変化があったといいます。
①顧客ニーズに伴うサービスの提供スタイルの変化②それに伴う経営課題の変化です。
店舗利用の減少によりデリバリーニーズが上がり、出前館はいち早くそのニーズに対応しました。その結果、ユーザーの利用意識が変わったといいます。
顧客ニーズの変化により、藤井氏は「飲食店側もポートフォリオの安定のため、デリバリーだけでなく、テイクアウト・eコマースも含めた複数チャネルによるビジネス構成へのマインドチェンジを強く感じた」と今までと異なる変化があったと語りました。
【写真左から】株式会社Bespo 代表取締役CEO 高丘史典氏/
株式会社エビソル 代表取締役 田中宏彰氏/
株式会社出前館 代表取締役社長 CEO 藤井英雄氏
そういった変化への対応スピードが求められる中、全国平均よりも早く回復傾向に向かった店舗があるといいます。
渋谷区の焼肉店では、今までウォークイン(電話予約なしで直接来店)だったユーザーが来店前に電話で空席を確認してから予約をするといったケースが増えており、そういったユーザーの獲得がうまくいっているようです。
営業時間の短縮・三密を避ける・スタッフの減少という課題もある状況下において、店舗利用者の獲得が必要になるため、来店前の電話に対応することが非常に重要になってきます。
その解決策として『LINE AiCall』に注目が集まっています。
--AIとデータをどう活用するか?
飲食業界の危機を打破する『LINE AiCall』
現状の『LINE AiCall』は、当日予約と予約確認に対応しており、音声による自動応答で予約電話の一部を『LINE AiCall』に転送し、忙しい時間帯や営業時間外の電話の自動化を実現しています。(有人への切り替えや、お客様との会話履歴の可視化も可能)
2019年11月に実際の店舗で『 LINE AiCall』を活用し実証実験を行ったエビソルの田中氏は、「『LINE AiCall』は今までの音声による自動応答とは一線を画しており、音声合成の技術により人間の声に近い対話ができる。お客様や店舗からも高い評価をいただいた」と『LINE AiCall』の精度の高さに驚いています。
空席がない場合は、断る、もしくは別の時間帯の候補を提示し、
店舗の系列店があれば、そこの空席状況を確認しおすすめすることができる
また、藤井氏は、この先AIが高度化することで「イートインだけでなく、デリバリーやテイクアウトの電話にも応用ができる。電話以外にもネットやアプリから得たデータを蓄積することで、そのデジタルデータをその先のマーケティングに活用するなど、今後のデータ活用方法が重要になる」と話し、『LINE AiCall』の今後の展望に期待を寄せました。
非常に厳しい飲食業界で、現状を打破すべく『LINE AiCall』の活用が課題解決のひとつの手段となるのではないでしょうか。
■関連情報
・株式会社エビソルの『LINE AiCall』を活用した実証実験について
地方自治体で進むDX化とAIの導入
コロナ禍の影響を受けているのは企業だけではなく、地方自治体にも大きく影響を及ぼしています。
神奈川県では、患者の症状に応じた対応を策定することで医療崩壊を防ぐ医療提供体制「神奈川モデル」を構築し、LINE公式アカウント上でCLOVA Chatbotを活用した「新型コロナ対策パーソナルサポート(行政)」や「療養者のフォローアップシステム」など、様々な新型コロナウイルス対策を行ってきました。
LINEを利用したメリットについて、神奈川県の黒岩知事は「電話相談がなかなかつながらないので、LINEに切り替えた。友だち登録するとLINEから送られてくる症状に関する質問に答えるだけで、パーソナルにサポートしてくれる。陽性患者へのフォローアップ対応では、LINEで反応がない方へは電話をし、電話に出ない方へは保健師がホテルまで行って確認をするという仕組みを作っており、陽性患者の80%以上がLINEを登録しているため、ほとんどの方の追跡ができている」と語りました。
これ以外にも、療養中の患者へフォローアップとして患者への問診を行い経過観察を行うといった取り組みも行われました。
CLOVA Chatbotを活用し、LINEを登録している方へ自動で質問メッセージを送り、また『LINE AiCall』を活用し、LINEを登録されていない方へ電話による自動通話を行うことで、保健所職員の負担軽減に貢献したといいます。
「新型コロナウイルスの影響範囲が不明瞭なため、常にモニタリングの必要があり、現場は逼迫していた。
一方で、自宅待機の患者さんは不安でしかない。その状況を行政としてフォローができる仕組みを
考えるところから始まった」(LINE 江口氏)
こういった職員や保健師の負担軽減や県民の不安を解消する仕組み作りを行う裏で、システム構築の観点でも大きなテーマがあったといいます。
システム開発を担当した株式会社アルムの坂野氏は、「大きく2つのテーマがあった。1つは、セキュリティやプライバシーをどう担保し、取得したデータをいかにセキュアな環境でちゃんと管理をするか。もう1つは、患者さん1人1人の状況を把握し、重篤者をピックアップしアプローチするための情報を、膨大なデータの中から関係者にどうやって届けるか」と説明し、今後は「整理された情報をいかに早く届けるかが次の課題である」と語りました。
--ビックデータをどう扱うのか?データを使って何をすべきか?
セッションの最後に、黒岩知事も述べているように「ビックデータをどう扱うのか」というのは企業がAIの導入・DXを勧める上でも重要です。今回の神奈川県の事例では、LINEを活用することだけではなく、データの活用方法にも課題解決の成功要因がありそうです。
今回の取り組みの中で、LINEを活用したことで得られたデータがあります。
感染者の広がりを把握するという目的で、「郵便番号を入力してもらうことで、発熱者がどの地域に増えているかがわかるようになった。さらに、発熱者が増えると、感染者も増えるという傾向を知ることができた」(黒岩知事)といい、新たに取得したデータを活用することで、状況把握の精度が上がり、県民により一層最適なサポートを行うことができたといいます。
その結果、ユーザーはLINEで自分が住んでいる地域の感染状況がどうなっているかを認識することで「自分事化」に繋がり、セルフケアを行うようになった、といいます。
このようにLINEで問い合わせの自動化を行うだけではなく、目的を明確にした上で取得したデータをうまく使う、デザインするといったこともDXを推進する企業にとって重要なポイントとなるでしょう。■関連情報
・神奈川県との取り組みについて(自宅・宿泊療養者へのフォローアップ)
・大分県中津市の新型コロナウイルス感染に関する電話相談窓口として『LINE AiCall』が対応
大企業のDXにおけるAIの活用とLINEを活用したCXの実現
ヤマトホールディングス株式会社(以下、ヤマトホールディングス)はデータドリブン経営を掲げており、最前線でDXに取り組んでいます。昨年にはDX推進を進めるべく、新たな経営計画を策定し、新組織による5つのデータ戦略などを実施しています。
ヤマトホールディングスは莫大なフィジカルリソースを抱えながら、年間18億個もの荷物を運ぶといいます。複雑な組織や業務を整備しながら、どうやってDXを進めているのでしょうか。
ヤマトホールディングスのデジタルシフトを牽引する中林氏は、大事なポイントを3つあげています。
1.目的をしっかり持つこと。
2.顧客の接点からデータを貯めること。データがないと何も始まらない。
3.UXを作るためにAIと人間のコラボレーションをどうデザインするか。
AIを導入してDXを効率的に推進するには、この3つのポイントをおさえる必要があるでしょう。
--顧客体験(CX)の重要性
DXを推進するにあたり、ヤマトホールディングスの中林氏は「デジタル化自体は目的ではなく手段であり、デジタル化したデータを活用し、いかにユーザーに良い体験を届けるかがとても重要」と、顧客体験(CX)の重要性を指摘しています。
では、より良い顧客体験を提供するためには、どのようにデータを活用すべきなのでしょうか。
中林氏は2つの視点が、より良い体験を作り上げるポイントだといいます。
1.LINE・Web・メール・電話などといった様々なデジタルタッチポイントがある中で、その断片化されたデータを統合し一元化することで、ユーザーをよく知ること。(いつどんなことで問い合わせをしてきたのかなど)
2.その上で、顧客体験を作っていくこと。
また「CX を追求するだけでもダメで、会社の経営戦略とCXをつなぎ合わせて行く作業が一番重要である」(中林氏)と、戦略とCXを線で繋ぐことの重要性についても触れました。
--さらに高度な顧客体験を創出。デジタルプラットフォームの重要性
インターフェイスを多様化し、データを一元管理することは企業のためだけでなく、ユーザーの利便性向上にも貢献することができます。そこでポイントとなるのが、AIの活用です。
LINEの中村氏は「LINEのAI技術はユーザーに寄り添う技術として、ユーザー視点を大切にしている。AIとはアナログとデジタルの垣根をなくすような技術だ」といいます。
例えば、今までオペレーターが電話の内容を手入力していたアナログな対応を、AIを活用することで、音声をテキストデータ化し、それを要約してシステムに蓄積する、といったことが実現できるといいます。
AIでデジタル化し取得したデータを活用することで、企業はユーザーの一人一人が好むインターフェイスや対応、特徴・導線などを知り、全体感を把握することができます。この先AIの高度化が進むことで、テキストの表現や言い回し、電話の「間」や話し方からユーザーの感情を分析をするといったことも可能になるといいます。
また、中林氏は「しっかりと機能を作り一元化することで、API連携で様々なインターフェイスからユーザーが利用したい機能が呼び出されるといった、アーキテクチャーデザインを構築することが重要である」と語り、ユーザー視点の構築を行うことで、よりパーソナライズされたサービスの提供ができるようになると話しました。
ユーザーにとっては、自分好みのインターフェイスで企業とコミュニケーションをとり、使いたい機能が様々なインターフェイスで利用できるので、そのサービスを通じてリッチな体験をすることが可能になるでしょう。
--AIとヒトのコラボによる次世代のCX
セッションの最後に、中林氏は「AIはヒトの仕事をリプレイスするのではなく、ヒトの仕事のバラつきをなくし、底上げしていくものだ」という考えを示しました。
新人や社内異動の直後で状況がわからない方はAIをサポートしてもらいながら経験を積み、一方で経験やスキルのある方はAIに学習させて精度をあげていく、といったお互いの相互作用が生まれることで、全体の底上げができるのではないかという考え方です。
さらに今後ヒトが進化していくことで、AIの学習も進むといった好循環につながると、サービスレベルの飛躍的な向上に期待ができるといいます。
また、AIがヒトの仕事をヒトと同じようにできると、AIにユーモアや温かみなどの人間らしさを求めることがあります。ヤマト運輸のLINE公式アカウントでは猫語が利用でき、ユーザーに親しみを与えています。こういったユーザーが人間らしさを感じられるようなサービスもサービスレベルを上げるための一つの手段ではないでしょうか。
今後ヤマトホールディングスとLINEは協業し、様々な取り組みを行っていく予定だといいます。
LINEの8,400万人のユーザーと、ヤマトホールディングスの膨大なフィジカルリソースを掛け合わせることで、シナジーが生まれ、今までにない新しい顧客体験が期待できそうです。
OFFICIAL ACCOUNT